「留書上州鉛銭」より

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 上州(群馬県)では、弘化(1844〜47)のころであろうか、鉛銭が誕生し,明治6年まで流通した。傷つき、磨り減った鉛銭は、その奮闘振りを今に伝える。
 昭和15年頃か、繭泉の父は、たまたま、目にした鉛銭「二十四文吉市 堀吉」を譲り受ける。「吉市」は我が家ゆかりの吉田市左衛門と察したゆえである。
 少年の日の繭泉は、突然、入来したこの鉛銭に惹き付けられた。そして、この一片の鉛銭に誘われるがままに、上州一円の鉛銭探訪の旅に出立した。やがて、のこ旅は、終わることのない旅と気づいたが、深い因縁による天命の旅と観念して、今もその旅の途上にある。鉛銭探訪においては多くの方々を煩わした。来し方を振り返るとき、その方々の面差しが目に浮かぶ。そして、その大半が鬼籍の人となったことに思い及ぶとき愕然とする。
 もはや、その方々が再び鉛銭を語ることはない。繭泉はこれまで見聞きしたことを書き留めておかなければならないと思うし、そうすることが時間を割いて下さった各位に報いる道でもあろうと思う。
 そこで、これまでの上州鉛銭探訪の成果のあらましを本書にまとめることとした。繭泉のこの道の旅は長いが、残念ながら日暮れて道遠し、の感はいなめない。
 この書留が資となり、いつの日か、上州鉛銭の全容が明らかになるならば、繭泉にとって、これにまさる喜びはない。
   平成十四年一月九日
                                          繭泉 梅沢信夫